図書館職員は本を貸すだけじゃない|クリスマス人形劇でサンタになった日

私は、図書館のクリスマス人形劇で、子どもたちのヒーローになったことがあります。

演じたのは、サンタクロース。

といっても、私自身が赤い服を着たわけではありません。

手にはめて動かす、小さなサンタクロースの人形です。

手袋の中指の部分にサンタさんの顔があり、親指と小指が両手になります。

指を動かすと、サンタさんが手を振ったり、驚いたり、困ったような仕草をしたりする。

私は、そのサンタクロースの声と動きを担当しました。

「サンタさ~ん!」

子どもたちが呼びます。

でも、まだ登場しません。

私は舞台袖から声だけで答えます。

「あれれ……。声が小さいぞぉ」

すると、

「サンタさ~~ん!!」

さっきより、ずっと大きな声が返ってきました。

そこでサンタクロースが登場。

会場から大きな拍手が起こりました。

つかみは大成功です。

サンタさんが歩けば笑いが起き、困った仕草をすれば、

「サンタさん、がんばって!」

と声が飛んできます。

劇に夢中になった子どもの一人が、サンタさんと握手をしようと舞台まで駆け寄ってきました。

「ねぇ、遠くから見ていてね」

そう声をかけると、

「は~い」

手を振りながら席へ戻っていきました。

図書館に勤めるまで、私はこんな仕事があるとは思ってもいませんでした。

図書館の仕事は、本の貸出だけではなかった

図書館で働く前の私には、

「図書館=本を借りる場所」

というイメージしかありませんでした。

実際に働いてみると、それは図書館の一面にすぎません。

本の貸出・返却はもちろんですが、資料を探す利用者のお手伝いをしたり、子ども向けの行事を開いたり、図書館を利用してもらうためのさまざまな仕事があります。

子ども向けでは、お話し会や紙芝居、季節に合わせた催しなども行われていました。

クリスマス会も、その一つです。

こうした行事には、本を借りるだけでは得られない役割があります。

子どもが図書館へ来る。

そこで楽しい経験をする。

そして、

「図書館って楽しいところなんだ」

と思ってもらう。

それも児童サービスの大切な役割なのだと、働きながら知りました。

私は児童担当ではなく、事務担当だった

もっとも、私は児童担当ではありませんでした。

私の主な仕事は、図書館の予算などを扱う事務です。

だからといって、一日中机に向かっているわけでもありません。

必要があれば貸出カウンターにも立ちましたし、館内の仕事を手伝うこともありました。

そして行事となれば、担当以外の職員も応援に入ります。

この日のクリスマス会もそうでした。

当時の児童担当は女性職員でした。

そこで、

「サンタ役は男性のほうがいいでしょう」

という話になり、若かった私に白羽の矢が立ちました。

人形劇など、それまで一度もやったことがありません。

台本を読み、人形の動かし方を覚え、本番を迎えました。

私にとっては人生初の舞台でした。

子どもの反応は、こちらの予想以上だった

最初は少し緊張していました。

ところが、子どもたちの歓声を聞いているうちに、そんな緊張はどこかへ消えていきました。

少しアドリブを入れる。

「アハハ!」

サンタさんが困った仕草をする。

「サンタさん、がんばって!」

こちらが投げかければ、すぐに子どもたちから反応が返ってきます。

大人を相手にした催しとは、まったく違います。

面白ければ笑う。

応援したければ声を出す。

サンタさんに会いたければ、舞台の近くまで来てしまう。

子どもたちは実に正直です。

その反応に私のほうが乗せられ、いつの間にか夢中でサンタクロースを演じていました。

そして人形劇は、大きな拍手の中で幕を閉じました。

「あのぅ……サンタさんですか?」

人形劇が終わり、片付けをしていたときです。

一人の男の子が、私のところへやって来ました。

少し遠慮がちに聞きました。

「あのぅ……サンタさんですか?」

どうやら声で気づいたようです。

私は、

「そうだよ」

と答えました。

すると男の子は、

「握手してください」

と言って手を差し出しました。

その様子を見ていたほかの子どもたちも集まってきます。

「サンタさん、私も!」

「ぼくも!」

気がつけば、小さな手が何本も私に伸びていました。

ほんの少し前まで、私は図書館の予算を扱う事務職員です。

それがその瞬間だけは、

子どもたちにとって「サンタさん」になっていました。

図書館で働かなければ経験できなかったこと

公務員として長く働いていると、異動によって、それまで想像もしなかった仕事を経験することがあります。

私にとって図書館も、そんな職場の一つでした。

図書館に配属されたとき、まさか自分が人形を手にはめ、子どもたちの前でサンタクロースを演じることになるとは思っていませんでした。

でも今振り返ると、こういう経験こそ強く記憶に残っています。

図書館の仕事は、本を貸すだけではありません。

本と人をつなぐ仕事がある。

調べものを手伝う仕事がある。

そして、子どもたちに図書館を好きになってもらう仕事もある。

その中には、予算書や事務書類を見ているだけでは分からない仕事がたくさんありました。

あの日、男の子から、

「握手してください」

と言われたことを、今でも覚えています。

大げさかもしれませんが、その日だけは本物のサンタクロースになれたような気がしました。

そして、ほんのひとときだけ、

図書館で子どもたちのヒーローになれたのでした。

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