
選挙管理委員会の事務局で働いていた頃の癖というのは、恐ろしいものです。
退職してしばらく経った今でも、街を歩いていると、選挙ポスターの掲示板や政治活動用のポスターに、つい目が向いてしまいます。
普通の人なら、そのまま通り過ぎるのでしょう。
ところが私は、
「ここに掲示板を設置するのか」
「このポスターは、どういう扱いになるのだろう」
などと考えてしまう。
誰に頼まれたわけでもありません。
もう選挙管理委員会の職員でもありません。
それでも、目だけは現役時代のままなのです。
旅行に行っても選挙ポスターが気になる
先日、旅行へ出かけたときのことです。
名所を巡り、美味しいものを食べて、地酒でも楽しむ。
本来なら、それだけでいいはずです。
ところが駅前を歩いていると、政治家のポスターが目に入りました。
すると、無意識に見てしまいます。
「これは選挙運動のポスターではなく、政治活動用だな」
「この掲示の仕方はどういう扱いになるのだろう」
現役時代の感覚が、勝手によみがえってきます。
ポスターの角が剥がれていれば、
「雨風にさらされているからなあ」
と気になる。
さらに、
「この地域の選管は、どのくらいの人数で管理しているのだろう」
などと、余計なことまで考えてしまいます。
せっかく旅行に来たのです。
もっと景色を見ればいい。
それなのに、気になるのは街角のポスター。
我ながら困ったものです。
選挙管理委員会には独特の緊張感がある
選挙管理委員会というと、
「選挙のときだけ忙しい部署」
と思われるかもしれません。
しかし実際には、選挙が始まるずっと前から準備があります。
投票所の準備。
職員の配置。
選挙に必要な物品の確認。
各方面との連絡調整。
そして選挙期間に入れば、間違いがないよう神経を使います。
投票日が近づくにつれ、職場の空気も変わっていきます。
特に投開票日は独特です。
一つのミスが大きな問題につながる可能性があります。
「間違えてはいけない」
その緊張感の中で仕事をしていました。
選管を離れてからも、街で選挙関係のものを見ると、あの頃の感覚が戻ってくるのです。
選挙ポスター掲示板の場所まで見てしまう
もう一つ気になるのが、選挙ポスターの掲示板です。
選挙が始まると、街のあちこちに掲示板が設置されます。
普通なら、
「ああ、選挙が始まるんだな」
くらいでしょう。
ところが元選管職員は違います。
「なぜここに設置したのだろう」
「ここなら通行人から見やすいな」
「この場所は設置するのが大変そうだ」
そんなことを考えてしまいます。
現役時代には当たり前だった仕事の目線が、退職しても残っているのでしょう。
退職しても「仕事の目」は残る
退職したら、仕事のことなどすっかり忘れるものだと思っていました。
実際、忘れてしまった仕事もたくさんあります。
ところが、長い間繰り返してきたことは、なかなか消えません。
図書館へ行けば、カウンターの仕事が気になる。
役所へ行けば、職員の動きが気になる。
そして選挙が近づけば、掲示板やポスターが気になる。
43年間、公務員として働いてきました。
その間に身についたものは、知識や経験だけではなかったのでしょう。
ものを見る「目」まで、公務員になっていたのかもしれません。
旅先くらい、空の青さや風の匂いだけを楽しめばいい。
そう思いながらも、今日も街角のポスターを見つけると、つい目で追ってしまいます。
退職届は出せても、職業病までは退職してくれないようです。

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