
選挙の仕事には、多くの人が必要です。
投票所を開き、選挙人名簿を確認し、投票を受け付ける。
投票が終われば、今度は開票作業があります。
しかも、ただ人がいればいいというわけではありません。
「この人は投票できるのか」
「この場合はどう扱えばいいのか」
選挙事務には、さまざまな判断を伴う仕事があります。
そのため、私が選挙管理委員会にいた当時、こうした仕事は基本的に役所の職員が行っていました。
アルバイトや人材派遣の人たちに、選挙事務の中心を任せるという発想は、少なくとも私の勤めていた区ではありませんでした。
ところが、役所を取り巻く状況が変わっていきます。
職員の数が、次第に減っていったのです。
出先の職員から「人が足りない」と言われた
当時、現在の期日前投票にあたるものは「不在者投票」と呼ばれていました。
私の勤めていた区では、本庁だけではなく、区役所の支所などの出先でも不在者投票を受け付けていました。
ところが、役所の人員削減が進み、出先の職員も減っていきました。
当然、現場からは、
「これでは人が足りない」
という話が出てきます。
選挙だからといって、普段の仕事をすべて止めるわけにはいきません。
では、どうやって選挙に必要な人員を確保するのか。
そこで出てきたのが、
「選挙にも人材派遣を使えないだろうか」
という考えでした。
役所の仕事にも人材派遣が使われるようになっていた時期です。
それなら選挙でも使ってみよう。
それが、私の勤めていた区で選挙事務に人材派遣を入れた始まりでした。
判断するのは職員、人材派遣はその補助
ただし、一つ大きな問題がありました。
選挙事務には、判断を伴う仕事があるということです。
単純な作業だけではありません。
そこで私たちは、人材派遣の人たちにすべてを任せるのではなく、
判断するのは職員。人材派遣の人には、その補助となる仕事をしてもらう。
そういう考え方で始めました。
当時の私は、まだ役職のない一職員でした。
そして、この人材派遣による不在者投票の担当になりました。
人材派遣の人に選挙事務をどう教えるか
実際に始めてみると、大変だったのが人材派遣の人たちへの教育です。
人材派遣で来る人は、当然ですが、もともと選挙事務をしていた職員ではありません。
いわば、区民に近い立場の人たちです。
その人たちに、
「これはこうしてください」
「こういう場合は職員に確認してください」
と、一つひとつ教えていきました。
同時に、不在者投票を行う支所の職員との橋渡しも必要でした。
最初の頃は、支所の職員から、
「派遣の人は知らないことが多いじゃないか」
と言われることもありました。
それは、ある意味では当然だったと思います。
選挙事務には、実際にやってみなければ分からないケースがいろいろあります。
いくら事前に教えても、すべてのケースを網羅することはできません。
分からないことがあれば、職員に聞いてもらう。
職員が判断する。
そうやって、少しずつ仕事の流れを作っていきました。
何年かたつと、それも次第に軌道に乗っていきました。
支所から本庁へ
支所での人材派遣がうまくいくと、次は本庁です。
本庁でも不在者投票を行っていました。
しかも、本庁は投票に来る人が多いため、かなりの人数が必要になります。
そこで、本庁の不在者投票にも人材派遣を入れることになりました。
これも、なんとかうまくいきました。
最初は出先。
次に本庁。
少しずつ、人材派遣の人と職員が一緒に選挙事務を行う形ができていったのです。
そして、さらに次の段階へ進むことになります。
選挙当日の投票所にも人材派遣を入れた
今度は、
「選挙当日の投票所にも人材派遣を入れられないか」
という話になりました。
この頃、私は不在者投票の担当から、投票事務の担当に変わっていました。
すでに人材派遣を使った経験もあります。
それなら、当日の投票所にも入れてみよう。
そういうことになりました。
ただ、規模がまったく違います。
不在者投票を行っていた出先は、記憶では13か所ほどでした。
一方、選挙当日の投票所は40数か所あったと思います。
必要になる人の数が、一気に増えます。
そこで人材派遣会社と契約し、人員を確保しました。
もちろん、契約して終わりではありません。
むしろ大変なのは、そこからでした。
一番大変だったのは「人の手配」と「教育」
人材派遣を選挙当日の投票所に入れるうえで、特に大変だったのは二つです。
人の手配と、教育です。
選挙当日に仕事をしてもらう以上、事前に選挙事務を理解してもらわなければなりません。
そのため、人材派遣の人たちを集めて研修を行いました。
一度だけではありません。
何日かに分け、時間を区切って研修を行いました。
人数が多いので、これだけでもかなりの仕事です。
そして、どれだけ準備しても、当日には想定外のことが起こります。
来るはずの人が来ない。
派遣された方が転んでけがをする。
そんなこともありました。
人が来なければ、投票所の運営に影響します。
そういうときは人材派遣会社の担当者に電話をして、
「なんとかしてください」
と頼み、代わりの人を手配してもらう。
選挙当日は、そんな対応も必要でした。
東京都で自治体職員向けに講演をした
投票事務への人材派遣を進めていた頃、東京都の選挙管理委員会から声がかかりました。
都内の自治体の選挙担当職員に向けて、投票事務について話をしてほしいという依頼でした。
そこで私は、東京都で講演することになりました。
講演が終わると、いくつか問い合わせもありました。
その中には、
「投票事務には判断を伴う仕事が多い。それなのに人材派遣を使っていいのか」
という趣旨の質問もありました。
確かに、そこは私たちも導入するときに考えたところです。
だからこそ、
判断するのは職員。人材派遣の人には、その補助となる仕事をしてもらう。
という形で運用していました。
当時、ほかの自治体でどこまで人材派遣が使われていたのか、私は詳しく調べてはいません。
ただ、東京都で話をしたあとに他の自治体から問い合わせがあったことを考えると、私の勤めていた区は比較的早い時期に取り組んでいたのではないかと思います。
人材派遣は開票事務にも広がった
その後、人材派遣の活用はさらに広がりました。
今度は開票事務です。
投票事務で人材派遣を使うことができた。
それなら、開票でも使えるのではないか。
そうなっていったのです。
当時、開票担当から、
「投票でうまくいったから、開票にも入れられる」
という趣旨の言葉をもらったことがあります。
自分が担当したところから始まった方法が、別の選挙事務にも広がっていった。
これは、うれしかったですね。
選挙は「うまくいって当たり前」の仕事
私は選挙管理委員会にいたとき、いろいろな仕事を経験しました。
投票所の選挙人名簿をコンピューター化したことも、その一つです。

そして今回の、人材派遣の導入もありました。
こうしたことをやらせてくれた上司がいたことも、大きかったと思います。
選挙というのは、不思議な仕事です。
うまくいって当たり前。
何事もなく投票が終わり、開票結果が出ても、特別に褒められることはほとんどありません。
しかし、何か失敗すれば厳しく問われます。
それでも、選挙には人が必要です。
物も必要です。
場所も必要です。
どれか一つ欠けても、選挙はできません。
役所の職員が減っていく中で、選挙に必要な人をどう確保するのか。
人材派遣の導入は、そのために私たちが試した一つの方法でした。
最初は、出先の不在者投票から始まりました。
それが本庁へ広がり、選挙当日の投票所へ広がり、さらに開票事務へとつながっていきました。
東京都で、ほかの自治体の職員にその経験を話す機会もありました。
大きなことをした、というつもりはありません。
ただ、職員だけで選挙を行うことが当たり前だった時代に、別の方法でも選挙を支えられる仕組みを一つ作ることができた。
今振り返ると、あのときやっておいてよかった仕事の一つだったと思っています。

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