昭和の役所では昼になると「カレー屋」が開店した

昼になると始まる「今日のカレー」

私が29歳のとき、最初の人事異動で区役所の「情報処理担当」へ配属されました。

コンピュータシステムを運営する部署です。

昭和63年当時、その職場には今では考えられない昼休みの風景がありました。

職員の中に料理好きがいて、朝の朝礼が終わると声を掛けます。

「今日はカレー。乗る人いる?」

「お願いします!」

という声が次々に上がります。

もちろん、私もその一人でした。

「300円ね」

小銭を渡すと、

「毎度あり~」

その間、本人は給湯室のようなスペースで、大鍋をかき混ぜながら黙々とカレーを作り続けます。

しばらくすると、建物中にカレーの香りが広がっていきました。

情報処理担当は役所の別館にあり、本館とは少し離れた場所でした。

本館とは違う、どこか自由な空気が流れていました。

玉ねぎにこだわる料理人

その職員いわく、

「カレーは玉ねぎで決まる」

朝から時間をかけて玉ねぎを炒め続けます。

休日には、ビールを飲みながら何時間も玉ねぎを炒めることもあるそうです。

昼のチャイムが鳴る頃には、ちょうどカレーが完成。

食堂へ向かう職員もいれば、外へ食べに行く職員もいます。

私たちは出来たてのカレーを囲みました。

「うまい!」

あちこちから声が上がります。

ところが、本人は首を振ります。

「まだ玉ねぎの炒めが足りないな」

そのこだわりぶりに、みんなが笑いました。

今なら衛生管理やコンプライアンスの面から、まず許されないでしょう。

それでも昭和の役所には、仕事には真剣でも、肩の力を抜いて働ける空気がありました。

今では考えられない、昭和の役所の職場文化

当時は、今ほど職場のルールが細かく決められていませんでした。

もちろん、何をしても許されたわけではありません。

それでも、仕事をきちんとしていれば、昼休みの過ごし方などには比較的おおらかなところがありました。

職員同士の距離も今より近かったように思います。

同じ鍋のカレーを囲みながら、仕事の話をしたり、くだらない話で笑ったりする。

そんな時間も、職場の人間関係をつくる一つの役割を果たしていたのかもしれません。

その後、私はいくつもの職場を経験しましたが、職場で職員が朝からカレーを作る光景に出会ったのは、後にも先にもここだけでした。

今の基準で見れば、「そんなことをして大丈夫だったの?」と思われるでしょう。

私自身、今なら同じことはできないと思います。

それでも、効率やルールだけでは語れない職場の温かさが、あの時代には確かにありました。

あのカレーの香りを思い出すたびに、そんな時代だったことを懐かしく感じます。

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