
私が新人公務員として図書館に配属されたのは、40年以上前のことです。
今の図書館とは、職場の雰囲気も働いている人たちも、ずいぶん違っていました。
当時の図書館には、とにかく個性的な職員がいました。
仕事一筋という人ばかりではありません。
不器用な人もいれば、マイペースな人もいる。
新人だった私には、
「役所には、こんな人たちもいるんだ」
と驚くことの連続でした。
ところが40年以上経った今、不思議なことがあります。
優秀だった人より、そんな個性的な人たちの方をよく覚えているのです。
なぜ図書館には個性的な職員が多かったのか
当時、図書館は役所の中でも少し独特な職場でした。
私のいた職場では、労働組合が図書館の専門性を重視し、職員の異動をできるだけ少なくしようという考え方を持っていました。
そのため、一つの図書館に長く勤務する職員もいました。
結果として、それぞれ独自の仕事のスタイルを持った人たちが生まれていったのかもしれません。
新人だった私は、そんな先輩たちに囲まれて仕事を覚えていきました。
忘れられない3人の先輩
レコードを愛した先輩
当時の図書館には視聴覚室があり、レコードやスライドなどを扱っていました。
まだ音楽配信どころか、CDさえ一般的ではなかった時代です。
その担当をしていた先輩は、クラシック音楽が大好きでした。
レコードの選定から整理まで、熱心に担当していました。
穏やかな人でしたが、とても気が弱い。
利用者から強い口調で何か言われると、
「ちょっと助けてください」
と事務室へ戻ってくることもありました。
そんな先輩が、新人だった私をクラシックコンサートへ誘ってくれたことがあります。
場所は上野の東京文化会館。
演奏は新星日本交響楽団でした。
翌日、職場の人から、
「あの人とコンサートに行ったの?」
と驚かれました。
なぜ驚かれたのか、今となってはよく覚えていません。
ただ、クラシック音楽を聴くと、今でもあの先輩を思い出します。
不器用だけれど、憎めない人でした。
ある朝、警察が訪ねてきた先輩
別の先輩には、何度か飲みに連れて行ってもらいました。
よく行った店では、なぜかキャベツのざく切りが名物でした。
アルミのボウルに山盛りになって出てきます。
ところが、ある朝のことです。
図書館に警察官がやってきました。
その先輩は出勤していません。
聞けば、前夜に酒の席でトラブルがあり、警察が事情を確認しているというのです。
新人だった私は驚きました。
「役所で働いていると、こんなことまであるのか」
詳しい事情について、ここで書くことは控えます。
ただ、かなり大きな騒ぎだったことだけは覚えています。
それでも私にとっては、飲みに連れて行ってくれた先輩でした。
人間には、いろいろな顔があります。
40年以上経った今でも、その朝、図書館に警察官が現れた光景を覚えています。
終業10分前になると帰り支度を始める先輩
もう一人、忘れられない人がいます。
黙って座っていると、図書館長に見えるような人でした。
オールバックにスーツ。
長身で、堂々としている。
初めて訪ねてきた人が偉い人だと思い、名刺を差し出すこともありました。
ところが、話し始めると印象が一変します。
「あのさぁ~」
甲高い声でした。
そして終業時刻が近づくと、きっちり帰り支度を始めます。
終業時刻になるとすぐ帰れるよう、準備万端。
新人だった私は、
「こんな働き方もあるのか」
と妙に感心したものです。
今なら周囲から厳しい目で見られるかもしれません。
しかし当時は、それも職場の日常の一つでした。
効率だけでは語れない昭和の職場
もちろん、昔の方が良かったと言いたいわけではありません。
今の方が改善されたことは、たくさんあります。
仕事の効率も上がりました。
住民サービスに対する意識も変わりました。
職員に求められる責任も、以前より明確になっていると思います。
それでも40年以上前の図書館には、今とは少し違う空気がありました。
多少不器用でも、少し変わっていても、その人なりの居場所があった。
そんな「人間の余白」が、職場に残っていたような気がします。
私が新人だった頃に出会った人たちは、もうほとんど職場には残っていないでしょう。
それでも、クラシック音楽を聴いたとき。
昔の図書館を見かけたとき。
ふと、あの人たちを思い出すことがあります。
仕事の記憶というのは、仕事内容よりも、そこで出会った人の記憶なのかもしれません。

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