なぜ図書館によって閲覧席の数が違う? 元図書館職員が見た40年前の議論

図書館に行くと、同じ公共図書館なのに、

「ここは座る場所がたくさんあるな」

と思う図書館もあれば、

「本はたくさんあるのに、座る場所が少ない」

と感じる図書館もあります。

なぜ、図書館によって閲覧席の数がこんなに違うのでしょうか。

もちろん、建物の広さや予算も関係します。

しかし、それだけではありません。

私は特別区職員として43年間働き、最初に配属されたのが図書館でした。

今から40年以上前、新しい図書館をつくる際に、

「そもそも図書館に閲覧席はどのくらい必要なのか」

という議論が職員の間で行われていました。

そこには、それぞれの自治体が考える「図書館とは何か」が表れていました。

本は家で読むものか、図書館で読むものか

図書館に就職した後、私は司書資格を取るために図書館学を学びました。

図書館の世界では、本だけでなく雑誌や新聞、視聴覚資料などを含めて「資料」と呼びます。

図書館は、利用者が必要とする資料や情報を提供する場所です。

ここまでは、それほど異論はありません。

問題は、その先でした。

資料を提供することを中心に考えるのか。

それとも、

資料を提供するとともに、館内で読んだり調べたりする場所も重視するのか。

新しい図書館をどうつくるかを話し合う職員会議で、この問題について何時間も議論したことを覚えています。

今振り返れば、

「そんなことを何時間も話していたのか」

と思わなくもありません。

しかし、当時の職員たちは本気でした。

図書館をどう考えるかによって、建物そのものが変わってしまうからです。

「本は借りて家で読む」という考え方

私が勤めていた自治体では、当時、

図書館は資料を提供する場所であり、本は借りて自宅で読む

という考え方が比較的強かったように記憶しています。

その考え方で図書館をつくれば、大規模な閲覧スペースは必要ありません。

限られた建物の中に書架を置き、多くの資料を揃えることを優先できます。

結果として、閲覧席は少なくなります。

ところが、近隣の自治体へ行くと様子が違いました。

閲覧席がたくさんあり、試験前になると学生たちでいっぱいになります。

同じ「図書館」という看板を掲げているのに、中に入ると雰囲気がまったく違う。

若かった私は、それを不思議に感じていました。

私は閲覧席の多い図書館が好きだった

個人的には、閲覧席の多い図書館が好きでした。

静かな館内に人が集まっている。

本を読んでいる人がいる。

新聞を広げている人がいる。

何かを調べている人がいる。

学生が勉強している。

ときどきページをめくる音が聞こえる。

そういう空間そのものが、私は図書館なのではないかと思っていました。

もちろん、

「図書館は自習室ではない」

という考え方もあります。

これも昔からある議論です。

限られた席を、持ち込んだ参考書で勉強する人が長時間使用していいのか。

図書館の資料を利用する人を優先すべきではないのか。

簡単には答えの出ない問題でした。

閲覧席が少ないのには現実的な理由もあった

ただ、43年間役所で働いた今になって振り返ると、理念だけで決まっていたわけではなかったとも思います。

図書館を建てるには、お金がかかります。

特に都市部では、広い土地を確保することも簡単ではありません。

一つの大きな図書館をつくるのか。

それとも、規模を抑えて身近な場所に複数の図書館を配置するのか。

書架を増やすのか。

閲覧席を増やすのか。

限られた面積の中では、すべてを実現することはできません。

当時、私たちが議論していた「図書館とは何か」という理念の裏側には、こうした行政上の現実もあったのだと思います。

「図書館なんて貸本屋だろう」

ある日、床屋の主人と図書館の話になりました。

主人はあっさり言いました。

「図書館って貸本屋だろう」

図書館で働いていた私からすれば、

「いやいや、それだけじゃないんだけどな」

と言いたくなります。

でも、妙に印象に残りました。

利用する側から見れば、図書館はもっと単純なのかもしれません。

本を借りたい。

新聞を読みたい。

調べものをしたい。

静かなところで本を読みたい。

利用者にとって大切なのは、図書館学の理念ではなく、自分が使いやすい図書館かどうかなのでしょう。

閲覧席を見ると、その図書館の考え方が見えてくる

現在では、図書館の役割もさらに広がっています。

しかし、図書館へ行ったとき、ちょっと館内を見回してみてください。

閲覧席がたくさんあるのか。

書架を中心につくられているのか。

学習する場所が分けられているのか。

ゆっくり過ごせる空間があるのか。

そこには、その自治体が考える「図書館とは何か」が少なからず表れています。

私が若い職員だった40年以上前にも、そのことで真剣な議論がありました。

図書館の一脚の椅子にも、実は行政の考え方と歴史があります。

そんな目で図書館を見ると、いつもの風景が少し違って見えるかもしれません。

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