
区役所は平日に行くところ。
かつては、それが当たり前でした。
しかし、平日に仕事をしている人にとって、区役所へ行くために仕事を休まなければならないのは不便です。
そこで、私が勤めていた区でも、区役所を日曜日に開ける「日曜開庁」を始めることになりました。
私は、その立ち上げを担当しました。
ただ、区役所の扉を日曜日にも開ければいい、というほど簡単な仕事ではありません。
職員をどうするのか。
どの部署を開けるのか。
普段は別の階にいる職員をどこに座らせるのか。
パソコンやプリンターはどうするのか。
区民に庁舎の中をどう歩いてもらうのか。
そして、職員の理解をどう得るのか。
実際にやってみると、決めなければならないことが次々と出てきました。
選管から「日曜開庁」の担当へ
私が日曜開庁の話をもらったのは、選挙管理委員会にいた頃でした。
その後、戸籍や住民票などを扱う戸籍住民課へ異動し、日曜開庁の立ち上げを担当することになりました。
選管にいると、役所の中のさまざまな部署の職員と仕事をします。
そのため、自然と庁内に顔が広くなります。
また選挙は、投票日という絶対に動かせない日に向けて、多くの人や物を動かす仕事です。
以前の記事でも書きましたが、まさに「段取り八分」の世界です。

人の意見をまとめ、段取りを組み、決められた日までに形にする。
そうした選管での経験も、日曜開庁の担当になった理由の一つだったのではないかと思います。
9月に異動して、1月には開ける
私が戸籍住民課へ異動したのは、9月の途中でした。
そして、
「1月から日曜開庁を始めたい」
という開始時期は、すでに決まっていました。
残された時間は数か月です。
まずやったのは、計画を立てることでした。
システムを改修する。
関係する部署と調整する。
職員の勤務体制を決める。
窓口のレイアウトを考える。
必要な機器を準備する。
そして、実際にシステムを動かしてテストする。
選挙と同じです。
実施する日は動かせません。
1月の開始日から逆算して、一つずつ仕事を組み立てていきました。
目指したのは「日曜日のワンストップ窓口」
日曜開庁の中心になるのは、戸籍住民課でした。
戸籍。
住民票。
当時の外国人登録。
しかし、区外から転入してきた人の手続きは、それだけでは終わりません。
国民健康保険、税、児童手当、母子保健、介護保険など、さまざまな手続きが関係してきます。
そこで区長が考えていたのは、日曜日に来た区民が、できるだけ一か所で必要な手続きを済ませられるようにすることでした。
いわば、日曜日のワンストップ窓口です。
考え方としては、とても分かりやすい。
しかし、それを実際にやる側は大変でした。
普段は別の階にいる職員をどうするのか
戸籍住民課以外の関係部署は、普段は別のフロアで仕事をしています。
日曜開庁の日だけ、戸籍住民課のある場所へ来てもらわなければなりません。
そうすると、
「どこに座ってもらうのか」
というところから考える必要があります。
机がいる。
パソコン端末がいる。
プリンターも必要になる。
どこに何を置くかというレイアウトも決めなければなりません。
それぞれの部署の職員が仕事をできるだけでは駄目です。
区民が、
「次はどこへ行けばいいの?」
と迷わない配置にする必要もあります。
人、物、場所、そして仕事の流れ
日曜開庁を準備していて、選挙事務とよく似ていると思いました。
必要なのは、まず「人・物・場所」です。
人については、誰が日曜日に出勤するのか。
職員全員が毎週出るわけにはいきません。
戸籍住民課でも、半数程度、あるいはそれより少し多い程度の体制だったと思います。
管理職もローテーションを組みます。
窓口では、必ず予想外のことが起きます。
担当職員だけでは判断できないこともある。
そのとき、
「誰が責任を持って判断するのか」
まで決めておく必要がありました。
管理職に対して、
「この日はあなたに出てもらいます」
といった調整をするのも、担当者である私の仕事でした。
お釣りを誰が用意するかまで決める
大きな仕組みだけ決めれば、日曜開庁ができるわけではありません。
実際に仕事の流れを考えていくと、細かな問題が次々と出てきます。
何時に誰が来るのか。
誰が最初に準備するのか。
終了後は誰が片づけるのか。
利用者数などの統計は誰が取るのか。
証明書の交付には手数料がかかります。
では、
「お釣りは誰が準備するのか」
そんなところまで決めなければなりません。
終わってしまえば、なんということもないことです。
しかし、新しい仕事を始めるときには、今まで「当たり前」だった手順が存在しません。
当たり前を一つずつ作るのが、立ち上げの仕事でした。
「日曜日まで出るのか」という職員の反発
区民にとって日曜日に区役所が開くのは便利です。
しかし、働く職員から見れば事情が違います。
それまで日曜日は休みだったのです。
そこへ、
「これからは日曜日も開けます」
と言われる。
当然、抵抗のある職員もいました。
全員から、
「いいですね。やりましょう」
と言ってもらえるわけではありません。
他の部署からも、
「予想以上に区民が来たらどうするのか」
「セキュリティは大丈夫なのか」
など、さまざまな意見が出ました。
パソコンを置くなら、後ろから画面を見られないようなブースが必要ではないか、という意見までありました。
私自身、
「そこまで考えなくても、まずやってみないと分からないのではないか」
と思うこともありました。
でも、それをそのまま言うわけにはいきません。
一つひとつ意見を聞き、考え、答え、説得していきました。
通常業務が終わってから、他部署を説得しに行った
この「説得」も大きな仕事でした。
昼間は通常業務があります。
そのため、業務が終わった後に関係部署へ出向いて、説明することもありました。
日曜開庁は戸籍住民課だけでできる仕事ではありません。
他部署の協力がなければ、区長が目指したワンストップの窓口にはならないからです。
それでも幸い、戸籍、住民票、外国人登録など、現場の係長たちは協力的でした。
同じ立場で一緒に考えてもらえる。
これは心強かったです。
「お金をかけるな」――それでも助けてくれた人がいた
もう一つ条件がありました。
できるだけ新しいお金をかけないこと。
新たに大きな予算をつけて、好きなように設備を整えられるわけではありませんでした。
そんな中で助けてもらったのが、庁舎管理を担当する部署でした。
庁舎そのものを管理している部署です。
そこの管理職が日曜開庁に理解を示してくれ、いろいろと便宜を図ってくれました。
たとえば、役所で保有していた携帯電話を優先的に回してくれたこともありました。
新しい仕事というのは、担当者一人ではできません。
制度や予算には表れない、こうした周囲の協力にずいぶん助けられました。
初日に気になったのは「区民が迷わないか」
そして、いよいよ最初の日曜日を迎えました。
システムについては、それぞれの部署で何度もテストをしていました。
全体を通した運用テストも行っています。
それでも、実際に区民が来るまでは分かりません。
特に私が気にしていたのは、区民の動線でした。
日曜日は区役所全体が開いているわけではありません。
転入などに関係する部署を一か所に集めています。
そこへ来た区民を迷わせず、必要な窓口へ案内し、手続きを済ませて帰ってもらえるか。
予算をかけられませんから、立派な案内設備を新しく作ったわけでもありません。
台のようなものに紙の案内を貼り、
「こちらです」
と区民を誘導する。
そんな手作りの案内も使いました。
システムが止まる日には開けられない
日曜開庁を始めた後にも、問題はありました。
役所のコンピューターにはメンテナンスの日があります。
システムが動かなければ、窓口を開けることはできません。
その日は、
「日曜開庁は行いません」
と事前に広報し、庁舎にも案内を出します。
それでも、知らずに来てしまう人がいました。
せっかく日曜日に区役所まで来たのに、手続きができない。
後から、
「どうしてくれるんだ」
という苦情を受けたこともあります。
便利なサービスを始めれば、それが今度は「やっていて当然」になっていく。
行政サービスの難しいところでもあります。
区民からは「助かった」と言ってもらえた
一方で、日曜日だからこそ来られる人も大勢いました。
特に、平日に仕事をしている人です。
そうした区民から、
「日曜日に開いていて助かった」
という声をいただくこともありました。
その言葉を聞くと、
「やってよかったな」
と思いました。
区民には喜ばれ、職員からは矢面に立たされた
ただ、面白いものです。
区民からは、
「便利になった」
「助かった」
と言ってもらえる。
一方、役所の中では、それまで休みだった日曜日に職員が出勤しなければなりません。
私は制度を決めた人間ではありません。
担当者として、決められた日曜開庁を実現する仕事をしていただけです。
それでも、職員からすれば私は日曜開庁の担当者です。
そのため、
「どうしてくれるんだ」
という不満の矛先が、私に向くこともありました。
制度を始める側と、実際に働く側。
そしてサービスを利用する区民。
それぞれの立場があります。
その間に入って調整するのが、私の仕事だったのだと思います。
精神的には、なかなか気を遣う仕事でした。
それでも、やってよかった
振り返ってみると、日曜開庁の立ち上げは、選挙事務とよく似ていました。
開始日は決まっている。
そこへ向けて、人を集める。
物をそろえる。
場所を作る。
システムを整える。
関係する人たちの意見をまとめる。
そして、細かな仕事の流れまで一つずつ決めていく。
始まってしまえば、それが次第に「普通の仕事」になります。
でも、最初の一回には「普通」がありません。
その「普通」を作るのが、立ち上げを担当する職員の仕事です。
反対意見もありました。
苦情もありました。
職員から不満をぶつけられることもありました。
それでも、日曜日に来た区民から、
「助かった」
と言ってもらえた。
だから今振り返っても、
日曜開庁は、やってよかった仕事だったと思っています。

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