
私が図書館に配属された1982年。
図書館の現場は、コンピュータ導入をめぐって揺れていました。
当局は導入を進めようとする。
一方、労働組合からは慎重な意見が出る。
役所に入ったばかりの私は、
「便利になるのに、なぜ反対するんだろう」
と不思議に思っていました。
今では図書館でコンピュータを使うのは当たり前です。
しかし、その「当たり前」が始まるとき、現場には戸惑いと葛藤がありました。
コンピュータ導入前の貸し出し
当時、本を借りる方法は今とはまったく違いました。
本の裏には「ブックカード」が入っています。
本を貸し出すときには、そのカードを抜き取り、利用者の貸出券と一緒にして保管します。
本が返却されれば、カードを元の本へ戻す。
一冊一冊、人の手で処理していました。
今から考えると、ずいぶん手間のかかる作業です。
しかし当時は、それが普通でした。
バーコードで仕事が一変した
コンピュータが導入されると、貸出方法は大きく変わりました。
利用者の貸出券にバーコードが付く。
本にもバーコードが付く。
それぞれを読み取れば、貸出処理ができます。
それまで人間が一冊ずつ行っていた作業が、短時間で処理できるようになりました。
若かった私は、
「こんなに便利になるなら、なぜもっと早く導入しないのだろう」
と思ったものです。
しかし、長く働いてみると、組織に新しい技術を入れるというのは、それほど単純な話ではないことも分かってきました。
なぜコンピュータ導入に反対したのか
当時の図書館業務は、多くの部分を人の手に頼っていました。
コンピュータを導入すれば、仕事は効率化されます。
しかし、効率化されれば、
「これまでと同じ人数の職員が必要なのか」
という話にもつながります。
職員にとっては、自分たちの働き方そのものが変わる問題でした。
また、それまでコンピュータに触れたことのない職員にとって、新しい機械への不安もあったと思います。
労働組合からは「受付が機械的になる」といった意見も出ていました。
今から振り返れば、単純な「コンピュータ反対」ではなく、仕事が大きく変わることへの不安もあったのではないかと思います。
若手だった私はコンピュータ化の担当になった
私は若手だったこともあり、コンピュータ化を進める側の仕事を任されました。
職員向けの研修会も何度も開きました。
すぐに操作を覚える人もいました。
なかなか馴染めない人もいました。
今なら珍しくありません。
スマートフォンでもパソコンでも、新しいものをすぐ使える人もいれば、時間のかかる人もいます。
しかし1982年です。
職場でコンピュータを使うこと自体が、まだ特別な時代でした。
現場の戸惑いは、今よりずっと大きかったと思います。
時代の流れを読んでいた人たち
興味深かったのは、一部の労働組合幹部でした。
表面的には導入に慎重な立場を取りながらも、コンピュータの長所も短所もよく理解していました。
そして、
「この流れを止めることはできない」
ということも分かっていたのだと思います。
最終的には、現場も少しずつコンピュータ導入を受け入れていきました。
その後、管理職になっていった人もいました。
長い公務員生活を振り返ると、こうした時代の変化を読む力を持っていた人は、やはり強かったように思います。
今では当たり前。でも、最初は当たり前ではなかった
現在の図書館で、コンピュータのない貸出業務を想像するのは難しいでしょう。
利用者カードを読み取る。
本のバーコードを読み取る。
それだけで貸し出しが終わります。
しかし、その仕組みが導入されたときには、
「仕事はどう変わるのか」
「職員はどうなるのか」
「利用者との関係はどうなるのか」
そんな議論がありました。
私はその現場に、新人職員としていました。
当時は分からなかったことも、43年間働いた今なら少し分かります。
新しい技術が入ってくるとき、人が不安になるのは今も昔も変わりません。
1982年の図書館で起きていたことは、もしかすると、AIが急速に職場へ入ってきている今と、それほど違わないのかもしれません。
図書館の静かなカウンターの裏にも、そんな時代の転換点がありました。

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