
選挙というと、投票日が「本番」だと思われるでしょう。
朝から投票所が開き、有権者が一票を投じる。
夜になると投票箱が開票所へ運ばれ、開票作業が始まります。
では、その前日、選挙管理委員会の職員は何をしているのでしょうか。
実は投票日前日は、選管にとって最も慌ただしい日の一つです。
私が勤務していた選挙管理委員会は、普段は10人にも満たない小さな職場でした。
ところが投票日前日になると、選管OBや役所内の応援職員、運転手などが集まってきます。
小さな選管が、一気に「選管本部」へと姿を変えるのです。
以前の記事では、選挙事務は「段取り八分」であり、「人・物・場所」の準備が大切だということを書きました。
関連記事:選挙は「段取り八分」― 元選管職員が語る投票所・開票所の舞台裏

今回は、その段取りの最終日ともいえる「投票日前日」に、選管の中で何が起きているのかを書いてみたいと思います。
投票日前日までに「人・物・場所」をそろえる
選挙を行うための基本は、「人・物・場所」です。
「人」は、投票所や開票所で働く従事職員、投票・開票管理者、立会人など。
「物」は、投票所や開票所で使用するさまざまな物品。
そして「場所」は、区内各地の投票所と開票所です。
もちろん、これらを投票日前日に慌てて準備するわけではありません。
選挙が決まれば、かなり前から一つずつ手配していきます。
投票日前日は、それまで準備してきたものが本当にそろっているのかを確認する、最後の一日でもあります。
公示・告示後は電話が増えていく
選挙が始まると、選管には有権者からさまざまな問い合わせが入ります。
特に入場整理券を各家庭へ発送すると、電話が増えていきます。
「まだ入場整理券が届かない」
「なくしてしまった」
「どこの投票所へ行けばいいのか」
といった問い合わせです。
ちなみに、入場整理券が届いていなかったり、紛失したりしても、選挙人名簿に登録されていれば投票できます。東京都選挙管理委員会もそのように案内しています。
問題は、選管職員は電話対応だけをしているわけではないことです。
それぞれが投票や開票など、自分の担当する準備を抱えています。
電話に出ている間、その仕事は止まります。
昼間は問い合わせの電話に追われ、ようやく電話が少なくなった夜になってから、自分の仕事をする。
選挙期間中に残業が多くなる理由の一つでした。
同じ選管でも、担当によって前日の仕事は違う
投票日前日といっても、全員が同じ仕事をしているわけではありません。
投票担当は、各投票所の設営が無事に終われば、大きな準備はほぼ終了です。
一方、開票担当はそうはいきません。
開票では、一票一票について有効なのか、無効なのかを判断しなければなりません。
候補者の名前が完全に正しく書かれていない票もあります。
似た名前の候補者がいることもあります。
どこまでなら、その候補者への一票と判断できるのか。
選挙ごとに立候補者が違いますから、実際の開票作業に備えた基準も選挙ごとに準備する必要があります。
区以外の選挙では、総務省もしくは東京都選挙管理委員会が示す基準をもとに、区選管で開票作業に必要な資料を作っていました。
そのため、投票担当が一段落する頃になっても、開票担当は資料作りに追われていることがありました。
法律上も、投票の効力は開票立会人の意見を聴いたうえで開票管理者が決定し、選挙人の意思が明白であれば可能な限り有効とする考え方になっています。
そして、もう一つ忙しいのが期日前投票担当です。
期日前投票は投票日前日まで行われています。
ほかの担当が翌日の準備をしている間も、期日前投票所では実際の投票が続いているのです。
投票日前日の朝、「選管本部」が立ち上がる
投票日前日になると、普段とは選管の雰囲気が変わります。
選管OBによる応援部隊がやってきます。
主な役割の一つが、電話対応です。
選挙事務を経験したOBですから、問い合わせにも対応できます。
さらに、役所内部から応援職員も加わります。
車と運転手も配置されます。
こうして、普段は10人にも満たない小さな選管が、一気に30人以上の大所帯になります。
私は、この状態を「選管本部が立ち上がる」と感じていました。
翌日の投票と開票に向けて、人も車も集まり、何か起きればすぐ動ける体制になります。
「表示物がありません」――投票所から電話が入る
投票日前日には、区内各地で投票所の設営が行われます。
必要な物品は事前に確認して届けています。
それでも実際に設営してみると、不足している物が見つかることがあります。
私が経験した中では、投票所で使う表示物が届いていなかったこともありました。
投票所から選管本部へ、
「○○がありません」
と電話が入ります。
本部で確認し、必要な物を準備する。
そして待機している車で投票所へ届けます。
届け終われば、本部へ完了の報告が入ります。
投票日前日に車と運転手を確保しておくのは、こうした事態にすぐ対応するためでもありました。
各投票所と選管本部を結ぶ「足」なのです。
期日前投票が終わると、投票箱を回収する
そして投票日前日の夜、もう一つ重要な仕事があります。
期日前投票の終了です。
期日前投票は、法律上も投票日の前日まで行うことができます。
投票が終わると、各期日前投票所から投票箱を選管へ回収します。
中には、すでに有権者が投じた大切な票が入っています。
私が勤務していた選管では、安全を確保するため、回収の際に警察官にも立ち会いをお願いしていました。
回収した投票箱は選管で管理します。
そして翌日の開票時に開票所へ運び、投票日当日に各投票所で投じられた票とともに開票します。
公職選挙法でも、期日前投票所から送致された投票箱等は市区町村の選管を経て、選挙当日に開票管理者へ送られる仕組みになっています。
10人にも満たない選管だけでは選挙はできない
私がいた選挙管理委員会の定員は、10人にも満たない人数でした。
その人数だけで、区内すべての選挙を動かすことは到底できません。
投票日前日と当日は、選管OBや役所内の職員が加わって選管本部を支えます。
期日前投票所にも職員が必要です。
当日の各投票所にも、多くの職員が従事します。
開票所には、さらに多くの職員が集まります。
私が勤務していた当時は、投票・開票の管理者や立会人について、明るい選挙推進協議会の方々にもお願いしていました。
会場の警備では警察の協力を受けます。
そして入場整理券を各家庭へ届けるためには、郵便局の協力も欠かせません。
選挙というと、「選挙管理委員会が行うもの」と思われるかもしれません。
もちろん、その中心にいるのは選管です。
しかし実際には、役所のさまざまな部署の職員、選管OB、地域の方々、警察、郵便局など、多くの人たちの協力によって成り立っていました。
翌朝、何事もなく投票所が開くために
投票日の朝。
決められた時間になると、区内の投票所が一斉に開きます。
有権者から見れば、そこから選挙が始まります。
しかし、選管職員にとっては、その瞬間までに長い準備があります。
人を集める。
物をそろえる。
場所を確保する。
問い合わせの電話に対応する。
不足している物品を投票所へ届ける。
期日前投票が終われば、投票箱を回収する。
そして、それらを選管職員だけで行っているわけではありません。
多くの人の力を借りながら、一つずつ準備していきます。
翌朝、何事もなかったように投票所が開く。
有権者がやって来て、いつものように一票を投じて帰っていく。
その「何事もない朝」を迎えるために、多くの人が動いている。
選挙管理委員会で働いていた私は、選挙のたびにそのことを感じていました。

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