選挙は「段取り八分」― 元選管職員が語る投票所・開票所の舞台裏

選挙というと、多くの人が思い浮かべるのは投票日だと思います。

朝から投票所が開き、夜になると開票が始まる。

テレビでは開票速報が流れます。

でも、選挙管理委員会で働いていた私にとって、投票日や開票日の意味は少し違いました。

むしろ、その日を迎えるまでが選管職員の仕事の本番だったように思います。

「段取り八分」という言葉があります。

仕事の良しあしは、事前の準備をどこまでしっかりできるかで決まる。

私は選挙事務を経験して、この言葉を何度も実感しました。

選挙は「人・物・場所」がそろって初めてできる

投票日を迎えるためには、大きく分けて三つのものを準備する必要があります。

「人」「物」「場所」です。

どれか一つが欠けても、選挙はできません。

「人」は、投票所や開票所で働く従事職員です。

そのほかにも、管理者や立会人など、それぞれの役割を担う人を確保しなければなりません。

「物」は、投票所や開票所で使用するさまざまな物品です。

そして「場所」。

区内各地の投票所と、票を集めて作業する開票所を確保します。

区民の方から見れば、選挙は投票所へ行って一票を投じるだけかもしれません。

その一日を迎えるために、選管ではかなり前から準備を始めています。

人を集めるだけでは終わらない

投票所や開票所で働いてもらう職員を確保すれば、それで終わりではありません。

当日、何をしてもらうのかを知ってもらう必要があります。

投票所には、それぞれの仕事があります。

決められた手順に沿って事務を進めてもらわなければなりません。

そのため、

「当日はこういう流れで仕事をします」

「あなたには、この仕事を担当してもらいます」

といった説明や研修も必要になります。

選挙の仕事に慣れている職員ばかりではありません。

初めて従事する職員もいます。

当日になって、

「何をすればいいんですか?」

では困ります。

人を確保し、その人たちが当日動けるようにしておく。

そこまでが選管の仕事です。

物品は前日の設営で最終確認

投票所で使う物品も、あらかじめ準備して各投票所へ届けます。

必要な物をそろえ、間違いなく届いていることを確認する。

当然、何度もチェックします。

それでも、間違いは起こります。

実際に、投票所で使う表示物が届いていなかったことがありました。

こうした不足は、投票日前日の設営のときに気づくことがほとんどでした。

投票所から、

「これがありません」

と連絡が入ります。

そうなると、選管から急いで届けます。

前日なら、まだ何とかなります。

これが投票日当日の朝だったら大変です。

前日の設営は、単に会場をつくるだけではありません。

それまで準備してきたものが本当にそろっているかを確認する、最後の点検でもありました。

一番困るのは、急に人が来られなくなること

物が足りなければ、届ければ済むことが多いです。

しかし、人はそうはいきません。

投票所や開票所の従事予定者から、

「急用で行けなくなりました」

と連絡が入ることは、珍しいことではありませんでした。

選挙はかなり前から準備します。

その時点では従事できる予定だった職員にも、その後、事情が変わることがあります。

体調を崩すこともあるでしょう。

家庭の事情が発生することもあります。

連絡を受ければ、代わりの職員を探します。

すぐに代わりが見つかればいいのですが、直前では手配が間に合わないこともあります。

そんなときは、欠員のまま残った職員に従事してもらうこともありました。

一人欠ければ、その分を誰かが補わなければなりません。

選挙事務では「人をそろえる」ことの難しさも何度も経験しました。

場所も確保しなければならない

そして忘れてはいけないのが、場所です。

投票するには投票所が必要です。

開票するには開票所が必要です。

いつもの施設を使う場合でも、当然のように自由に使えるわけではありません。

施設との調整が必要になります。

投票所の場合には、区内各地に会場を確保しなければなりません。

開票所には、多くの職員が一斉に作業できる広さも必要です。

人がいて、物がそろっていても、場所がなければ選挙はできません。

当たり前のことですが、その当たり前を一つずつ確実に準備するのが選挙事務でした。

投票日と開票日は「最後の日」

区民の方にとって、投票日は選挙の本番です。

しかし、選管職員の感覚は少し違います。

人を集める。

役割を決める。

仕事のやり方を説明する。

物品を準備する。

投票所と開票所を確保する。

前日に会場を設営し、最後の確認をする。

そうした準備を積み重ねた先に、ようやく投票日があります。

もちろん、当日は緊張します。

何が起こるか分かりません。

それでも、選管職員にとって投票日と開票日は、長く準備してきた仕事の「最後の日」でもあるのです。

投票日になってから一から仕事を始めるわけではありません。

それまでの段取りがうまくできていれば、当日は決められた仕事を一つずつ進めていくことができます。

選挙事務で知った「段取り八分」

どんな仕事でも、段取りは大切です。

でも私は、選挙管理委員会で働いて、そのことを特に強く感じました。

投票日になってから、

「人が足りない」

「物がない」

「場所が使えない」

では困ります。

だから何か月も前から、一つひとつ準備していきます。

それでも、表示物が届いていなかったり、従事する予定だった職員が突然来られなくなったりします。

どれだけ準備しても、予定外のことは起きるのです。

だから「段取り八分」とは、予定どおりに進めるための準備だけではないのだと思います。

予定どおりにいかなかったときに、どうするかまで考えておく。

それも段取りの一つです。

投票日、何事もなかったように投票所が開き、区民の方が投票して帰っていく。

そして開票が終わり、結果が確定する。

何事もなく終われば、それでいい。

その「何事もなく終わる一日」のために、何か月も前から準備する。

それが、選挙管理委員会の仕事でした。

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