新人公務員に私が必ず伝えてきたこと|43年間の区役所勤務で感じた新人教育の大切さ

43年間、特別区の職員として働いてきました。

その間、さまざまな新人職員と一緒に仕事をしてきました。

大学を卒業して、そのまま区役所に入ってきた人。

民間企業などで働いた後、公務員に転職してきた人。

仕事ができる人もいれば、なかなか仕事を覚えられない人もいました。

性格も考え方も、それぞれ違います。

そんな新人たちに、私はいくつかのことを繰り返し伝えてきました。

今振り返ってみると、それは単なる仕事の教え方というより、公務員としてどんな姿勢で仕事に向き合うべきかという話だったように思います。

新卒採用と社会人経験者では、出発点が違う

新人公務員といっても、大きく分けると二つのタイプがあります。

学校を卒業して初めて社会に出る人と、民間企業などから転職してきた人です。

社会人経験者は、ある程度のビジネスマナーや仕事の進め方を知っています。

電話の応対や文書の作成、上司への報告など、基本的なことが身についている人も多くいました。

一方で、前の職場で身についた仕事の進め方や考え方から、なかなか抜け出せない人もいました。

区役所には区役所なりの仕事の進め方や組織風土があります。

民間企業で優秀だったからといって、すぐに公務員の仕事になじめるとは限りません。

私が勤務していた頃には、採用を抑制した時期の影響で、職員の年齢構成に偏りが生じたこともありました。

その不足を補うため、社会人経験者の採用が重視された時期もあったように思います。

実際に入ってきた職員を見ると、経験を生かして活躍する人もいれば、なかなか力を発揮できない人もいました。

社会人経験があることと、公務員として仕事ができることは、必ずしも同じではないのです。

封筒の書き方から教えることもあった

一方、学校を卒業して入ってきた新人には、別の特徴があります。

社会人としての経験が少ない代わりに、前の職場の習慣にとらわれていません。

いわば真っさらな状態です。

一から仕事を覚えていけるという意味では、それが強みになることもあります。

ただし、本当に基本的なことから教えなければならない場合もあります。

例えば、区民に郵便を送る仕事です。

封筒に住所や宛名を書く。

切手を貼る。

私たちにとっては当たり前のことですが、それまで手紙を書いた経験がなく、封筒の書き方が分からない新人もいました。

そんなときは、そこから教えることになります。

新人なのですから、知らないことがあるのは当然です。

大切なのは、分からないことを一つずつ覚えていくことだと思います。

「この職場が区役所のスタンダードではないよ」

今でも印象に残っている女性の新人職員がいます。

私が公害補償係にいた頃のことです。

公害補償係は、過去の公害問題に関係する認定患者への補償制度などを扱う部署でした。

仕事には忙しい時期もありましたが、比較的残業が少なく、落ち着いている時期も多い係でした。

実は私自身、それまで忙しい部署で働いてきたため、人事当局にお願いして、比較的余裕のある職場に異動させてもらった経緯がありました。

そんな係に、学校を卒業したばかりの女性が配属されてきたのです。

私は少し気になりました。

区役所には、残業が多く、毎日仕事に追われる部署もあります。

その一方で、比較的落ち着いて仕事ができる部署もあります。

新人の最初の配属先として、この係が適切なのだろうか。

そんな思いがありました。

そこで、彼女には一つのことを伝えました。

「ここが区役所のスタンダードだと思わないでね」

今いる職場が、区役所のすべてではないということです。

いずれ別の部署に異動すれば、仕事の量も内容も、職場の雰囲気も大きく変わります。

そのことを知っておいてほしかったのです。

「仕事以外に、一つ趣味を持ちなさい」

その女性には、もう一つ話をしました。

「仕事以外に、何か一つ趣味を持ちなさい」

ということです。

仕事が終わって家に帰り、何となくテレビを見て一日が終わる。

もちろん、それが悪いわけではありません。

ただ、仕事だけで毎日が過ぎていくのは、少しもったいないと思っていました。

彼女はもともと読書が好きな人でした。

ところが、私がそんな話をした後、楽器を始めたのです。

確か、クラリネットのような管楽器だったと思います。

そして、地域の音楽団体のようなところに参加するようになりました。

それからしばらくして、彼女がその団体で知り合った男性と結婚したという話を聞きました。

これには私も驚きました。

「趣味を持ちなさい」と言ったことが、思いがけず人生の大きな出会いにつながったのです。

何だか私がキューピッドになったような気がして、少しうれしくなりました。

数年前、役所の中で彼女を見かけたことがあります。

向こうから挨拶してくれました。

そんなことも、新人職員との思い出として残っています。

配属先が偉いからといって、自分が偉いわけではない

もう一人、忘れられない新人職員がいます。

私がまだ役職に就く前、選挙管理委員会事務局で働いていた頃のことです。

学校を卒業したばかりの男性職員が配属されてきました。

その新人の教育係になったのは、仕事のできる若手職員でした。

仕事の進め方は積極的で、どちらかといえば勢いのあるタイプです。

新人は、その先輩の仕事ぶりを見ていたのでしょう。

次第に、自分まで偉くなったような態度を取るようになりました。

選挙管理委員会事務局は、選挙の際、区役所のさまざまな部署に協力をお願いする立場にあります。

選挙事務を進めるため、他部署の職員に仕事を依頼する機会が多いのです。

そのため、仕事の場面によっては、こちらの立場が強いように見えることもあります。

しかし、それは選挙管理委員会事務局という組織の役割によるものです。

新人職員個人が偉いわけではありません。

職場でも、その新人の態度が問題になりました。

そこで、あるとき酒の席に呼び、話をしたことがあります。

「あなたが偉いわけではないんだよ」

「選挙管理委員会事務局という立場と、先輩職員の仕事があって、相手が協力してくれているんだ」

「本来はこちらがお願いしている立場なんだから、もっと謙虚にならないといけない」

そんな話をしました。

そして、最後にこう伝えました。

「自分が相手の立場だったらどう思うか、考えてみなさい」

少し厳しい言い方だったと思います。

しかし、若いうちに勘違いしてしまうのは、本人にとってもよくありません。

公務員は、所属する部署や担当する仕事によって、周囲から頼られたり、強い立場に見られたりすることがあります。

だからこそ、謙虚さを忘れてはいけないと思うのです。

私が新人に繰り返し聞いた「その根拠は?」

仕事の指導で、私が特に大切にしていたことがあります。

それは、何かをするときには、必ず根拠を考えるということです。

職員が、

「こうしたいと思います」

と言ってきたとき、私はよく尋ねました。

「その根拠は?」

今までと同じ方法で仕事を進めようとしたときにも、

「なぜ、そうするの?」

と聞きました。

私が係長だった頃、職員から、

「係長は、いつも根拠、根拠って言いますよね」

と言われたこともあります。

それくらい、繰り返し聞いていたのでしょう。

私は、前例踏襲があまり好きではありませんでした。

今までそうしてきたから、これからも同じようにする。

それだけでは、理由にならないと思うのです。

以前は正しかった方法でも、法律や制度が変わっているかもしれません。

区民の生活や要望も変わっているかもしれません。

だからこそ、今その仕事をする理由を考える必要があります。

法律に書いてあるだけでは説明にならない

例えば、区民から、

「どうして、このような取り扱いになっているのですか?」

と聞かれたとします。

そのとき、

「法律の何条に書いてあるからです」

と答える職員がいます。

確かに、法的な根拠を示すことは大切です。

しかし、それだけでは十分ではありません。

区民が知りたいのは、法律の条文番号ではなく、なぜそのような仕組みになっているのか、ということかもしれません。

「それは分かったけれど、どうしてそんな決まりになっているの?」

そう聞かれたとき、きちんと説明できるでしょうか。

私は新人職員に、法律や制度の内容を自分なりに理解し、区民に分かる言葉で説明できるようになってほしいと伝えてきました。

役所の仕事は、区民のために行うものです。

担当者自身が意味を理解していなければ、区民に十分な説明はできません。

細かなことまですべて暗記する必要はありません。

しかし、自分が担当している仕事は、何のためにあるのか。

それだけは、常に考えてほしいと思っていました。

仕事は「早く、正しく、美しく」

私が選挙管理委員会事務局に異動した頃、先輩職員から教わった言葉があります。

「仕事は、早く、正しく、美しく」

選挙管理委員会事務局で受け継がれていた、仕事に対する基本姿勢のようなものでした。

仕事は、ただ早ければよいわけではありません。

間違いがあってはいけません。

また、正しい仕事であっても、書類や仕事の進め方が雑然としていては、よい仕事とは言えないでしょう。

早さ、正確さ、そして仕上がりの美しさ。

この三つを大切にするという考え方です。

私自身、その言葉を聞いてから、仕事の進め方を考える際の一つの基準にしてきました。

新人のうちに身につけてほしいこと

43年間の公務員生活を振り返ると、実にさまざまな新人職員がいました。

最初から仕事のできる人もいれば、時間をかけて成長していく人もいます。

新卒だから優秀、社会人経験者だから即戦力というように、単純に分けられるものではありません。

ただ、新人のうちに身につけておいてほしいことはあります。

自分の配属先だけが区役所のすべてではないこと。

所属する部署の立場を、自分自身の偉さと勘違いしないこと。

前例をそのまま受け入れず、仕事の根拠を考えること。

そして、区民の立場に立って、分かりやすく説明できるようになること。

もう一つ、仕事だけでなく、自分自身の生活も大切にしてほしいと思います。

仕事の経験は、これからいくらでも積むことができます。

しかし、仕事に向き合う基本的な姿勢は、最初の頃に身につけたものが、その後も長く影響するように思います。

新人公務員の皆さんには、ぜひそのことを覚えておいてほしいと思います。

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