公務員の人事異動、希望はどこまで通る?|43年間働いて分かった「異動の現実」

「次は、この部署に行きたい」

公務員として長く働いていれば、一度くらいはそんな希望を持つことがあると思います。

ところが、人事異動の希望はなかなか思いどおりにはなりません。

私自身、特別区職員として43年間働き、何度も人事異動を経験しました。

自分から希望したこともあります。

逆に、

「うちに来てくれないか」

と他部署の管理職から声をかけてもらったこともあります。

それでも異動できなかったことがあります。

なぜ、希望どおりにならないのでしょう。

人事課に勤務した経験のない私には、人事当局が具体的にどのような手順で一人ひとりの配置を決めているのかまでは分かりません。

ただ、43年間、異動する側、職員を送り出す側、そして管理する側を経験していると、見えてくるものがあります。

今回は、私が実際に経験してきた範囲から、公務員の人事異動について書いてみます。

希望を書いたからといって、異動できるわけではない

まず最初に言っておきたいのは、

人事異動は、本人の希望だけで決まるものではない

ということです。

むしろ、希望どおりにならないことの方が多いでしょう。

例えば、7人の係があったとします。

自分がそこへ行きたいと思っても、そもそもその年に異動する人がいなければ空きがありません。

空きがあったとしても、希望者が自分一人とは限りません。

人気のある部署なら、何人もの職員が希望しているかもしれません。

さらに、その職場がどんな人材を必要としているかという問題もあります。

つまり、

「私は行きたい」

だけでは決まらないのです。

人事は「一人」ではなく「職場全体」を見ている

私が長く働いて感じたのは、人事配置では職場全体のバランスがかなり重要だということです。

職員にはそれぞれ違いがあります。

仕事をどんどん進める人。

専門的な知識を持っている人。

周囲との調整が得意な人。

職場の雰囲気を和らげる人。

誰もが同じ能力を持っているわけではありません。

それで組織は成り立っています。

一方、企画、財政、人事など、区全体の政策や予算、人事に関わる、いわゆる官房系の部署には、仕事を処理する力や調整力などを高く評価された職員が集められる傾向があると、私は感じていました。

それ以外の職場でも同じです。

一人が異動すると、その代わりに誰を入れるのか。

その人を入れたとき、係全体のバランスはどうなるのか。

人事異動は、単純な「人の入れ替え」ではありません。

一つ動かせば、別のところも動かさなければならない。

いわば、大きなパズルのようなものだと思います。

激務の部署なら、誰でも配置できるわけではない

もう一つ、人事にはその職場の働き方も関係してきます。

私が経験した選挙管理委員会は、選挙になると非常に忙しい職場でした。

時期によっては、ほぼ毎日のように終電に近い時間まで仕事をすることもありました。

そういう職場には、誰でも配置できるわけではありません。

体力的に対応できるか。

残業ができる生活環境なのか。

例えば親の介護や家族の看護を抱えている職員なら、本人に能力や意欲があっても、長時間勤務の多い部署への配置が難しいこともあるでしょう。

職員本人の事情については、人事ヒアリングなどで伝える機会もあります。

本人の能力だけではなく、家庭環境やこれまでの職歴など、さまざまな事情が絡んで配置が決まっていく。

私はそう感じてきました。

最大の問題は「空き」と「タイミング」

そして、かなり大きいのがタイミングです。

私が勤務した職場では、新人はおおむね3年、それ以外の職員は5年程度が異動の一つの目安になっていました。

もちろん、これは絶対的なルールではありません。

2年、3年で動くこともあります。

特別な事情があれば1年で異動することもあります。

しかし通常は、ある程度の期間、その職場で勤務することになります。

ですから、自分が希望する部署にちょうど空きができるかどうか。

そこへ自分と合う人材を人事当局が配置しようと考えるか。

ほかにどれくらい希望者がいるか。

いくつもの条件が重ならなければなりません。

人事異動には、本人の努力だけではどうにもならない「運」と「タイミング」がかなりあると思います。

「第二希望に書けば通る」という都市伝説

昔、職員の間には人事異動にまつわる、いろいろな噂がありました。

例えば、

「本当に行きたい部署は第二希望に書いた方がいい」

「第一希望を書くと、人事はわざと外す」

「第三希望くらいに書いた方が通りやすい」

そんな話です。

今で言えば「都市伝説」でしょう。

私も若い頃には耳にしました。

しかし、43年間働いた経験からいえば、私はそんなことを気にする必要はないと思っています。

人事異動は、そんな単純な駆け引きで決まるものではありません。

行きたい部署があるなら、素直に希望する。

そして、なぜそこで働きたいのかを説明できるようにしておく。

その方が大切だと思います。

行きたい部署があるなら、資格も一つの武器になる

若い頃、ある管理職からこんなことを言われたことがあります。

「行きたい仕事があるなら、その仕事に関係する資格を取っておけ」

なるほどと思いました。

私が勤めていた区には、取得した資格などを人事情報として登録できる仕組みがありました。

資格を持っていれば必ず異動できるわけではありません。

しかし、ある部署が、

「こういう資格を持った職員はいないか」

と人材を探すことはあり得ます。

そのとき、人事情報に資格が登録されていれば候補になる可能性があります。

行きたい部署があるなら、

「異動させてください」

と希望するだけではなく、その仕事に関係する知識を勉強する。

必要なら資格を取る。

そして、それをきちんと人事情報に載せておく。

これは自分でできる準備の一つだと思います。

「うちに来ないか」と誘われても異動できなかった

私には、もっと分かりやすい経験があります。

他部署の管理職から、

「うちに来てくれない?」

と声をかけられたことが何度かあります。

こちらも行きたい。

相手の部署も私に来てほしい。

これなら異動できるだろうと思いますよね。

私もそう思いました。

気持ちはもう、新しい職場へ飛んでいます。

ところが、内示が出てみると異動していない。

そんなことが2、3度ありました。

後になって、声をかけてくれた管理職から、

「だめだったね。今の職場がどうしても手放さないんだよ」

と言われたことがあります。

なるほどと思いました。

異動先が欲しいと言う。

本人も行きたいと言う。

それでも、現在の所属が、

「この職員は出せない」

となれば、異動できないことがある。

人事異動とはそういうものです。

本人と異動先だけを見て決めているのではありません。

送り出す側の事情もあるのです。

だから、人事異動は難しいのだと思います。

希望が通らなかったら、自分を否定されたと思わない

異動できなかったとき、

「自分は評価されていないのではないか」

「能力がないと思われているのではないか」

と考える人もいるかもしれません。

でも、私はあまりそう考えない方がいいと思います。

空きがなかったのかもしれない。

ほかに適任者がいたのかもしれない。

今の職場から出せなかったのかもしれない。

希望先が別のタイプの人材を求めていたのかもしれない。

単純にタイミングが合わなかったのかもしれません。

本人には分からない事情がいくつもあります。

私自身、「来てほしい」と言われ、自分も希望していたのに異動できなかったのです。

ですから、異動できなかったという結果だけを見て、自分自身の評価と結びつける必要はないと思います。

それでも今の職場がどうしてもつらかったら

ただし、

「希望が通らなかったのだから我慢しろ」

という話ではありません。

仕事や職場がどうしても合わず、心身の調子を崩してしまう人もいます。

私は管理する立場でも、そういう職員を見てきました。

そんなときは、一人で抱え込まず、まず上司や管理職に相談することです。

必要であれば医療機関を受診する。

医師が必要と判断すれば、診断書を出してもらうこともあります。

そして人事ヒアリングなどの機会に、

「なぜ異動が必要なのか」

をきちんと伝える。

もちろん、診断書があれば必ず希望どおり異動できるという意味ではありません。

場合によっては、病気休暇などの制度を利用しながら、次の人事異動までつなぐ方法もあります。

その職場が合わなかっただけかもしれません。

次の職場へ移ったら、まったく違う働き方ができることもあります。

辞める前に、できることがある

管理職だった頃、私が残念に思ったのは、相談する前に辞めてしまう職員がいたことです。

もちろん、退職すること自体が悪いわけではありません。

それぞれ事情があります。

しかし、

「相談してくれれば、何かできたかもしれないのに」

と思ったことはあります。

休むという方法もある。

異動希望を強く伝えることもできる。

上司から人事当局に事情を説明することもできる。

公務員の場合、一度退職すれば、同じ身分にそのまま戻れるわけではありません。

だからこそ、つらいときには、退職を決める前に使える制度や相談先を使ってほしいと思います。

人事異動が通らなかったら、最後は腹を決める

では、特別な事情もなく、単純に希望が通らなかったらどうするか。

これはもう、

腹を決めるしかない。

私はそう思っています。

人事異動には、自分では動かせない要素がたくさんあります。

希望を出すことはできる。

資格を取ることもできる。

日々の仕事をきちんとすることもできる。

ヒアリングで自分の考えを伝えることもできます。

しかし、最後に決めるのは組織です。

私も、行くつもりになっていた職場へ行けず、気持ちが萎えたことがあります。

それでも仕事は続きます。

私にとって、働くことの究極の目的は、生きていくためでした。

もちろん仕事を通じて能力を伸ばしたり、新しいことを知ったり、自己実現につながったりすることもあります。

でも、その前に生活があります。

だから、異動できなかったら、今いる場所でまた仕事をする。

そして次の機会を待つ。

それしかないときもあります。

人事異動は「希望」だけでは決まらない

公務員の人事異動は、本人の希望だけで決まるものではありません。

空きがあるか。

どんな人材を必要としているか。

職場全体のバランスはどうか。

本人の職歴や能力はどうか。

家庭などの事情はどうか。

希望者は何人いるのか。

異動先はその人を求めているのか。

そして、現在の職場がその人を出せるのか。

いろいろな条件が重なって、ようやく一つの異動が決まります。

だから、希望が通らなかったからといって、

「自分は評価されていない」

と決めつける必要はありません。

行きたいところがあるなら、希望を出す。

必要な知識を身につける。

関連する資格があれば挑戦する。

そして人事ヒアリングでは、自分が何をしたいのか、事情があるなら何に困っているのかをきちんと伝える。

そのうえで通らなければ、腹を決めて今の仕事をする。

そして、また次の機会を待つ。

43年間、何度も人事異動を経験してきた私が言えるのは、結局それくらいなのかもしれません。

人事異動は、自分の希望だけでは動かない。

でも、自分の希望を伝え続けることまで、諦める必要はないのです。

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