東京都と特別区に「序列」はあるのか|43年間、特別区で働いて感じたこと

東京都と特別区。

制度上、それぞれが地方自治体として役割を持っています。

では、そこで働く職員の間に「序列」のようなものはあるのでしょうか。

私は特別区の職員として43年間働きました。

若い頃は、東京都と特別区の関係について、それほど深く考えたことはありませんでした。

しかし実際に仕事を始め、東京都の職員と一緒に仕事をしたり、国から東京都を経由して仕事が下りてくる場面を何度も経験したりするうちに、

「制度上の説明とは別に、現場には確かに上下のような空気があるな」

と感じるようになりました。

今回は、あくまで私自身の経験から、東京都と特別区の関係について書いてみたいと思います。

新人の私が最初に感じた「何かおかしい」

私が特別区に入ってまだ数年しかたっていなかった頃のことです。

伊豆大島の火山が噴火し、島から避難してきた方々を受け入れることになりました。

私の勤務する区でも、小中学校の体育館などが避難場所になりました。

避難者のお世話をする職員が必要になり、私は自分から手を挙げて従事しました。

まだ若い職員でしたから、現場ではいろいろな仕事をしました。

布団など必要なものを手配したり、避難してきた方々が困らないように動いたり。

そんな中、東京都からも職員が来ました。

私の記憶では一人だったと思います。

ところが、その都職員は基本的に応接スペースにいて、私たち区職員のように現場を動き回るわけではありませんでした。

もちろん、今になって考えれば、東京都との連絡調整など、その人にはその人の役割があったのでしょう。

しかし、若かった私は単純に疑問に思いました。

「東京都の職員は何をしているんですかね?」

先輩職員に聞くと、

「あれでいいんだ」

というような答えが返ってきました。

さらに印象に残っているのが、

「都の人に変なところは見せられない」

というような空気です。

私は不思議でした。

東京都も特別区も地方自治体ではないのか。

役割が違うのは分かる。でも、なぜそこまで東京都の職員を上の人のように扱うのだろう。

少し大げさに言えば、「あがめたてまつる」ようにさえ、当時の私には見えました。

これが、私が東京都と特別区の間に「序列のようなもの」を初めて意識した経験でした。

選挙の仕事でも感じた東京都との関係

その後、私は選挙管理委員会でも仕事をしました。

ここでも、東京都と特別区の関係を見ることになります。

選挙に関する国の方針などが示されると、東京都から区の選挙管理委員会に説明が行われます。

説明会が開かれ、私たち区の選管職員が出向いて話を聞く。

そして、実際の投票所や開票所を動かすのは区の職員です。

これは当然、国、東京都、区でそれぞれ役割が違うからです。

ですから、これ自体を「上下関係」と言うつもりはありません。

ただ、長く仕事をしていると、

国から都へ、都から区へ

という仕事の流れを感じる場面は何度もありました。

若い頃に避難所で感じたものとは少し違いますが、「上から下りてくる」という感覚を持つことはありました。

一方、現場で実際に区民と接し、投票所を設営し、開票作業を行うのは区です。

東京都と特別区では、仕事の立ち位置が違う。

私は次第に、そう考えるようになりました。

会計検査でも感じた違和感

保育関係の仕事をしていた頃にも、印象に残っている出来事があります。

会計検査院の検査を受けたときのことです。

検査には東京都の職員も立ち会いました。

会計検査院からの質問などに対応するのは、主に都のベテラン職員だったと記憶しています。

一方、若い都職員も何人か来ていました。

当時は今とは時代が違い、昼食についても区側で場所を用意するなど、いろいろな準備をしていました。

私はそこで、また少し違和感を覚えました。

「ここまで区側がお膳立てするものなのかな」

もちろん、それが当時の仕事の進め方だったのでしょう。

そして、都の若い職員にも、同行する意味や役割があったはずです。

それでも、避難所で経験したことと重なって、私には東京都と特別区の間にある独特の距離感のようなものが感じられました。

「東京都が上、特別区が下」なのか

では、東京都が上で、特別区が下なのでしょうか。

私は、そんなに単純な話ではないと思っています。

東京都には、広い地域を対象として制度や政策を考える役割があります。

一方、特別区は住民に近いところで、実際にサービスを提供します。

私は住民票、保育、選挙など、区民と直接関わる仕事をいくつも経験しました。

住民票の窓口では苦情を受けることもあります。

選挙になれば、実際に投票所や開票所を動かさなければなりません。

日曜開庁を担当したときには、戸籍、住民票、税、国民健康保険、介護保険、児童手当などの手続きを日曜日にもできる仕組みをつくりました。

駅直結の商業施設に期日前投票所を設ける仕事にも関わりました。

選挙人名簿を扱う事務のコンピューター化にも携わりました。

特別区だから、決められた仕事だけをしているわけではありません。

区の職員にも、新しい仕組みをつくる仕事はあります。

私は、本当はどんな仕事をしたかったのか

43年間働いた今になって振り返ると、一つ気づくことがあります。

私はもともと、住民と直接接する仕事を特に希望して公務員になったわけではありませんでした。

むしろ、広い範囲に関わる仕事や、新しい仕組みをつくる仕事が好きだったのだと思います。

それを強く感じたのが、50歳頃に全国の戸籍関係の組織の事務局を担当したときでした。

特別区の職員だけではなく、全国の自治体の職員と関わる。

東京都内の関係組織や法務局、さらに国の機関とも仕事をする。

仕事の範囲が一つの区を越えて、全国へ広がっていきました。

私は、この仕事が好きでした。

とてもやりがいを感じました。

そのときになって、

「私は、こういう広い範囲に関わる仕事がしたかったのかもしれない」

と分かった気がします。

東京都にも合格していた

実は私は、公務員試験を受けた当時、東京都にも合格していました。

川崎市も受験しました。

いろいろな事情と合格通知の時期などが重なり、最終的には特別区を選びました。

特別区を選んだ理由の一つには、当時読んだ本の影響もありました。

特別区の国民健康保険関係の職場で、職員が自主的に勉強会をしているという話を読んだのです。

「こんな職員がいるところで働きたい」

そう思ったことを覚えています。

ところが、実際に入ってみれば、当然ながら、本に書かれていた理想的な職場ばかりではありません。

少し拍子抜けした部分もありました。

就職先を選ぶときに得られる情報と、実際に働いて初めて分かることには、どうしても差があります。

面接にも、それぞれの仕事の特徴が出ていた

今思えば、採用面接にも違いが表れていたように思います。

特別区の面接では、私は「図書館への配属でもいいですか」というようなことを聞かれました。

私は「いいです」と答え、実際に最初の配属先は図書館になりました。

一方、東京都の面接で聞かれたことも覚えています。

人と人とのつながりが薄くなっている社会について、行政としてどう考えるか、といった趣旨の質問でした。

私は、都会が「コンクリートジャングル」のようになっても、人には人とのつながりを求める気持ちがある。

東京都として、そうしたものを引き出す役割も必要なのではないか。

そんな話をした記憶があります。

面接官が少し興味を持ったような表情をしたことも覚えています。

私は当時、東京都用、特別区用と細かく面接対策を分けていたわけではありません。

それでも今振り返れば、東京都では広い視点から社会や政策について考える質問があり、特別区では具体的な配属など、より現場に近い話が出ていた。

そんな違いもあったのかもしれません。

20代の私に助言するなら

もし今、20代の自分に会えるとしたら、何と言うでしょう。

私は、

「東京都の上級職を目指してみたらどうだ」

と言うと思います。

東京都の方が偉いからではありません。

特別区より格が上だからでもありません。

43年間働いて、自分がどんな仕事にやりがいを感じる人間なのかが、ようやく分かったからです。

私は、一人の住民と直接向き合う仕事も数多く経験しました。

それはそれで大切な仕事でしたし、そこでしか得られない経験もたくさんありました。

しかし、自分自身の好みを考えれば、広い地域を対象に制度や仕組みを考え、多くの組織と関わりながら仕事をする方が向いていたのかもしれません。

政令指定都市だった川崎市も、私には合っていた可能性があります。

広域的な仕事を持ちながら、住民に近い基礎自治体としての仕事もあるからです。

これは、67歳になった今だから言えることです。

「序列」より、自分が何をしたいか

東京都と特別区の間に序列はあるのか。

43年間特別区で働いた私の感覚では、職員同士の意識や仕事の流れの中に、「東京都が上、区が下」のように感じる場面は確かにありました。

少なくとも私は、そう感じてきました。

ただ、それだけで就職先を決めるのは違うと思います。

東京都には東京都の仕事があります。

特別区には特別区の仕事があります。

大切なのは、

「自分は、どんな仕事をしたいのか」

ということです。

住民の顔が見えるところで働きたいのか。

もっと広い範囲を対象に、制度や政策に関わりたいのか。

あるいは、その両方を経験できる環境を求めるのか。

私は公務員試験を受けた20代の頃、そこまで深く考えていませんでした。

だからこそ、これから東京都や特別区を受験する人には、試験の難しさや世間の評価だけではなく、その役所に入ったら、どんな仕事をすることになるのかを調べてほしいと思います。

合格することはゴールではありません。

その先には、何十年という仕事があります。

東京都が上か。特別区が下か。

そんな「序列」よりも、自分がやりたい仕事に近いのはどちらなのか。

43年間働き終えた今の私なら、20代の自分にそう問いかけます。

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