公務員になって良かったのか? 定年まで働いた私が今思うこと

私は大学を卒業するとき、民間企業への就職をほとんど考えていませんでした。

目指したのは、公務員だけです。

受験したのは、川崎市上級、国家中級、東京都中級、特別区中級、裁判所中級。

幸い、受験した試験にはすべて合格することができました。

今振り返れば、ずいぶん恵まれたスタートだったと思います。

ところが、当時の私は少し傲慢でした。

最初に採用の連絡をくれたのが特別区だったため、そのまま区役所への就職を決めました。

その後、川崎市からも採用の連絡が来ました。

今なら、

「上級職で合格した川崎市へ行く選択もあったな」

と思います。

しかし、若かった私は違いました。

「最初から採用してくれなかったところには行かない」

そんな妙な意地を張って、辞退届を出しました。

東京都を辞退したときには、人事担当者から電話までかかってきました。

「本当に辞退なさるんですね」

それでも気持ちは変わりませんでした。

こうして私の公務員人生が始まりました。

理想を持って入った区役所

最初は意気揚々としていました。

私は行政の至らないところを、自分たちの手で少しでも良くしたい。

そんな気持ちを持って公務員になりました。

ところが、実際に働き始めると、

「あれ、思っていた世界と少し違うな」

と感じるようになります。

もちろん、一生懸命働いている職員はたくさんいました。

尊敬できる先輩にも出会いました。

一方で、毎日の仕事を淡々とこなしていくことが中心になり、若い頃に思い描いていた「行政を変える」というような大きな理想は、次第に現実の仕事の中へ埋もれていきました。

私は中級職で採用されたため、入区一年目に「能力認定試験」を受け、合格しました。

それでも上級職で採用された同期より、スタートは一年遅れたことになります。

若い頃の私は、そんなことにもこだわっていました。

「もっと上を目指せたのではないか」

そんな思いは、長い公務員生活のどこかにずっと残っていたように思います。

それでも公務員を辞めなかった

仕事に疑問を感じたことは、一度や二度ではありません。

それでも私は辞めませんでした。

結婚し、子どもが生まれ、家族を養う立場になったからです。

毎月決まった日に給料が入る。

景気が悪くなっても、突然会社がなくなる心配はほとんどない。

住宅ローンを組むこともできる。

子どもの教育についても、ある程度先を見通して考えることができる。

若い頃には、それほど大きな魅力だと思っていなかった「安定」が、家族を持ってからは非常に大きな意味を持つようになりました。

子ども二人を育て、二人とも中高一貫校へ通わせることができました。

住まいも、アパートからマンション、そして一戸建てへと変わりました。

派手な人生ではありません。

それでも、家族の生活を守りながら人生設計を立てられたことは、公務員として働いた大きなメリットだったと思います。

若い頃には分からなかった「安定」の価値

退職してから、もう一つ実感したことがあります。

年金です。

現役時代には、老後のことなど遠い未来の話でした。

ところが実際に年金を受け取る年齢になると、長く働き続けたことの意味を感じます。

また、現役時代には財形貯蓄や積立型の年金なども利用していました。

若い頃から少しずつ積み立ててきたものが、退職後の生活を支えてくれています。

在職中の給与だけではありません。

退職した後まで生活設計を立てやすい。

これは、長く公務員を続けて初めて分かったメリットでした。

ただし、公務員になれば老後が自動的に安泰になる、という意味ではありません。

制度も時代とともに変わります。

現役のうちから、自分で貯蓄や資産形成を考えておくことは必要だと思います。

公務員になって失ったものもある

では、公務員になったことに後悔はないのか。

そう聞かれると、少し考えてしまいます。

本当は弁護士になりたかった。

大学で理系を選び、物理を勉強してみたかったという思いもあります。

もっと大きな組織で仕事をしてみたかった。

違う世界に飛び込んでいたら、まったく別の人生があったのかもしれません。

しかし、それは公務員になったから失ったというより、一つの人生を選んだことで、選ばなかった人生が残ったということなのでしょう。

どんな道を選んでも、同じことなのかもしれません。

43年間働いた今、公務員になって良かったのか

公務員になって良かったのか。

今の私なら、

「良かったと思う」

と答えます。

若い頃に思い描いていたような公務員人生ではありませんでした。

腹を立てたこともあります。

辞めたいと思ったこともあります。

もっと違う人生があったのではないか、と考えたこともあります。

それでも長い年月を振り返ると、公務員という仕事が私と家族の生活を支えてくれたことは間違いありません。

そして退職した今も、その恩恵を受けています。

だから、公務員を目指している若い人に「公務員はおすすめですか」と聞かれれば、

私は「おすすめできる仕事です」と答えます。

ただし、

安定しているから、という理由だけで選んでほしくはありません。

公務員も一つの仕事です。

人間関係もあります。

異動もあります。

理不尽なこともあります。

理想と現実の違いに悩むこともあります。

そのうえで、自分はどんな人生を送りたいのか。

そこまで考えて選んでほしいと思います。

43年間働いた私には、公務員になったことへの後悔はありません。

でも、

「もう一度20代に戻ったら、また同じ道を選ぶか」

と聞かれたら――。

私は少しだけ、答えに迷うと思います。

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