区役所の予算はどう決まる?|43年間働いた元特別区職員が語る予算折衝の舞台裏

区役所で何か新しい仕事を始めようとすれば、必ず予算の問題が出てきます。

私は43年間、特別区の職員として働き、さまざまな部署で予算の編成や新しい施策の立ち上げに関わってきました。

その経験から言えるのは、予算があるから施策を考えるのではなく、実現したい施策があるから予算を要求するということです。

もちろん、要求すれば何でも認められるわけではありません。

そこには財政当局との折衝があり、区としての判断があり、最後には区議会での審議があります。

今回は、区役所の予算がどのように決まるのか、実際に予算折衝を経験した立場からお話しします。

鉛筆一本、消しゴム一個も予算がなければ買えない

役所では、予算がなければ鉛筆一本、消しゴム一個も買えません。

これは大げさな話ではありません。

区役所の予算には、毎年必要となる経常的な経費があります。

事務用品などの消耗品費をはじめ、すでに実施している事業を継続するための経費です。

一方、新しい施策を立ち上げる際には、そのための予算が必要になります。

私が勤めていた区では、経常的な予算と、新しい施策などに関する臨時・政策的な予算とで、担当する部署が分かれていました。

経常的な予算は財政担当、新しい施策については企画担当と、それぞれ折衝することになります。

私は係長などの役職に就いてから、こうした担当部署とのヒアリングに何度も臨みました。

スクラップ・アンド・ビルドとシーリング

区役所の予算編成でよく使われる言葉に、「スクラップ・アンド・ビルド」があります。

新しい事業を始めるのであれば、必要性の薄れた事業を見直し、廃止するものは廃止する。

限られた財源の中で、新しい施策を実現するための考え方です。

もう一つが「シーリング」です。

これは予算要求に上限を設けることです。

例えば、消耗品費などの一般需用費について、前年より一律10%削減するよう求められることがあります。

現場としては、今までどおりの仕事を続けるだけでも経費がかかります。

それなのに予算を減らされる。

さらに新しいことを始めたいとなれば、どこかを見直して財源を生み出さなければなりません。

これが、予算を組み立てる際の難しさの一つでした。

予算折衝は前年の9月ごろから始まる

私が経験した区の予算編成は、おおむね次のような流れでした。

時期主な動き
前年9月ごろ各部署の予算要求と財政・企画担当との折衝
前年12月ごろ行政内部で予算の内示
1月ごろ区長による最終的な判断、予算案の取りまとめ
2月ごろ新年度予算案や主な新規事業の発表
2〜3月区議会で予算案を審議
3月議会の議決を経て予算成立

※時期や手順は、私が勤務していた当時の経験に基づくものです。

職員が新しい事業を考え、財政当局と折衝するのは、実際に事業を始める半年ほど前からということになります。

そして、区長が予算案をまとめても、それだけで予算が成立するわけではありません。

最終的には区議会の議決が必要です。

予算がつくかどうかは、説明する職員の力量にも左右される

予算折衝を何度も経験して感じたのは、説明する側の準備と説得力が、結果に大きく影響するということです。

財政当局の担当者にも、それぞれ受け持ちの部署があります。

限られた財源の中で多くの要求を審査するのですから、単に「必要だから予算をつけてほしい」と言うだけでは通りません。

なぜ必要なのか。

どんな効果があるのか。

その効果を数字で示せるのか。

私はヒアリングに臨む際、相手がどのような質問をしてくるか、どんな資料を求められるかを事前に考えていました。

「こう説明すれば、次はこう聞かれるだろう」

そんなことを予想しながら資料を用意したものです。

予算折衝には、数字の裏付けとともに、担当職員の経験や説明能力も必要でした。

選挙管理委員会で要求額の100%が認められた

私が特に印象に残っているのは、公務員生活の最後に勤務した選挙管理委員会での予算折衝です。

私は選挙管理委員会に二度勤務しました。

最初は一般職員として10年近く勤務し、その後、別の部署を経て、役職に就いてから再び戻ってきました。

そのため、選挙事務についてはかなり熟知していたつもりです。

選挙管理委員会は、選挙が近づくと非常に忙しくなります。

残業も増え、仕事に追われる日々が続きます。

そんな中、職員から、業務に使うシステムを新しく導入したい、あるいは更新したいという希望が出ました。

私も必要性を感じていました。

ただし、財政当局に対して「職員が大変だからシステムを導入したい」と説明するだけでは、説得力がありません。

そこで、実際の残業時間を調べました。

さらに、システムを導入すると作業時間がどの程度短縮されるのかを見積もりました。

削減できる時間に職員の平均的な人件費単価を掛ければ、金額に換算した効果も示せます。

それだけではありません。

長時間の残業が減れば、職員の健康を守ることにもつながります。

私は、業務の効率化と職員の健康という二つの面から、システム導入の必要性を説明しました。

結果はどうだったか。

要求した金額の100%、満額の予算が認められました。

これはうれしかったですね。

必要な事業であっても、その必要性をどう説明するかによって、結果は変わるのだと改めて感じました。

※選挙執行の場合、区独自で行うの区長選挙・区議会議員選挙の他は、国や東京都から執行費が出ます。

商業施設への期日前投票所設置も実現した

選挙管理委員会では、商業施設に期日前投票所を設置する仕事にも携わりました。

従来、期日前投票所は区の施設などに設けられることが多かったのですが、買い物などで多くの人が訪れる場所に設置できれば、投票する人の利便性が高まります。

この事業についても、必要な予算を満額認めてもらうことができました。

一方で、実現できなかった構想もあります。

それが「共通投票所」です。

期日前投票では、指定された期日前投票所であれば、住所地の投票区にかかわらず投票できます。

しかし、通常の投票日当日は、原則として指定された投票所で投票しなければなりません。

共通投票所は、当日でも有権者が投票できる場所の選択肢を増やす仕組みです。

そのためには、投票情報をオンラインで管理するなど、技術的な対応が必要になります。

私も導入を検討しましたが、当時は国の方針などが十分に整っていない部分があり、実現には至りませんでした。

新しい施策は、予算だけあれば実現できるというものでもないのです。

行政が力を入れた施策でも、区民の関心は意外に小さい

もう一つ、長い公務員生活を通じて感じたことがあります。

それは、行政職員が考える施策の重要性と、区民やマスコミの関心には、かなり違いがあるということです。

毎年、区では多くの施策を考え、予算を編成します。

新年度予算がまとまると、主な新規事業などが報道機関に発表されます。

しかし、新聞などに取り上げられるのは、その中の一部です。

その時々の社会情勢に合ったものや、話題性のあるものが中心になります。

行政の担当者にとっては、何か月もかけて準備した大きな仕事です。

それでも、一般の区民にとっては、必ずしも関心の高い話題ではありません。

私は以前、自分が勤務していた区とは別の、住んでいる区の区議会議員と話す機会がありました。

その議員によれば、住民との懇談会を開いても参加者は多くなく、意見を求めても、なかなか発言が出てこないそうです。

現役時代、私は仲間の職員たちと「ああでもない、こうでもない」と議論しながら、施策を考えていました。

しかし、退職して行政の外から見るようになると、自分自身も区の個々の施策に強い関心を持つことは、それほど多くありません。

むしろ、国の施策の方が気になることもあります。

行政職員が一生懸命に取り組んだ施策でも、その恩恵を直接受ける区民は限られる場合があります。

それは、その施策に意味がないということではありません。

ただ、行政の中で感じる仕事の大きさと、住民が感じる仕事の大きさは、必ずしも一致しないのだと思います。

予算をつけることが目的ではない

公務員として予算折衝を経験してきた私が思うのは、予算を獲得すること自体が目的ではないということです。

何のためにその施策を行うのか。

誰の役に立つのか。

どのような効果が期待できるのか。

それを考え、客観的な資料を用意し、財政当局に説明する。

予算が認められれば、今度はその事業を実現しなければなりません。

そして、実施した結果、本当に役に立ったのかを考える必要があります。

鉛筆一本から新しい行政施策まで、役所の仕事には予算が関わっています。

43年間の公務員生活を振り返ると、予算折衝もまた、行政の仕事の難しさと面白さを感じた経験の一つでした。

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