
ある朝、出勤すると、職場全体がどこか落ち着かず、ザワザワしていました。
新人だった私は何が起きているのか分からないまま、1階の管理係で出勤簿にハンコを押し、4階の新館準備室へ向かいました。
いつもどおり、新館に置く図書の選定や図面引きなどの仕事が始まります。
まだ何も分からない私は、先輩の指示を待ちながら仕事を覚える毎日でした。
それでも時間はあっという間に過ぎ、お昼の休憩になりました。
何気なく1階の管理係へ立ち寄ろうとした、その時です。
管理係は、出勤管理や施設管理、契約事務などを担当する部署です。
廊下を歩いていると、管理係の中から怒鳴り声が響いてきました。
「何やってんだ!!
勝手なことするな!!」
あまりの大声に思わず足が止まりました。
恐る恐るドアを開けると、そこには鬼の形相をした管理係長と、肩を落として小さくなっている係員の姿がありました。
後で事情を聞いて、ようやく理由が分かりました。
その係員が、図書館に出入りしている業者と、自分の引っ越しの契約を結んでしまったというのです。
当時の私は、「それの何がいけないのだろう」と正直思いました。
しかし、公務員が仕事で出入りする業者と私的な契約を結ぶことは好ましくありません。
極端な値引きを受けたと疑われるかもしれませんし、区民から見れば「便宜を図ってもらったのではないか」と受け取られる可能性もあります。
もちろん、その係員は一職員にすぎず、業者へ便宜を図るような権限はありませんでした。
それでも、公務員は「疑われるような行動をしないこと」が求められる仕事なのです。
これは40年以上前の出来事です。
当時は、まだ「コンプライアンス」という言葉も一般的ではなく、社会全体がおおらかな時代でした。
それでも、公務員として守るべき一線は、きちんと存在していました。
私は新人ながら、その怒号とともに「公務員の信用とは何か」を学んだのでした。

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